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とある戦闘の後





砂埃をまとわせた黒いボディが駐屯地に滑り込んでくる。大型のバイクに乗っているのは二人。そのうち一人は抜き身の刀を手にもう一人を支えていた。
「少将殿!」
「バイクと刀を頼む」
走り寄ってきた部下にバイクと血塗れた刀を渡す。あまりほかのやつに触らせたくないが、それよりも左腕のコイツのほうが優先された。刃渡りが1メートル以上ある刀に多少部下が狼狽するのを横目にバイクを降りる。
「救護室は空いているな?」
空いてなくても空かせるつもりだ。両腕で抱え上げた肉薄い身体に今、不足しているのは休息と血。失血には輸血などの治療があるが、自然治癒能力が半端なく高い麦わら屋には不必要だろう。ただの気休めだ。
「イエス、サー。ほとんどの兵士の治療は終わっていると先ほど連絡がありましたので、現在は空いているはずです」
部下の報告に満足すると、救護テントに足を向ける。
「待って!!」
若い女の声。聞き覚えがあるな、と思いつつ音の発生源をたどる。
「ルフィは大丈夫なの!?」
麦わら屋の部隊に所属するオレンジ色の髪をした女がそこにはいた。確か名前をナミとかいったか。砂に汚れた顔がわずかに歪んでいるのは麦わら屋を心配しているためであろう。視線はまっすぐに麦わら屋に向いていた。
「ひどく怪我したために血を流しすぎているが、特に危険な状態でもなく今は寝てる」
どんな状況であれ、冷静に物事を伝えるのは職業病みたいなものだ。麦わら屋の現状を口頭で説明する。
「・・・よかったぁ」
気の強そうな女は安心したためか、地面にじかにへたり込む。俺は気にせず歩を進めようとしたが、次の言葉に足が止まる。
「ねえ、あなたがロー?」
「俺はお前に名乗ったつもりはないんだが?」
へたり込んだと思っていた女は砂をはたきながら立ちあがり、言った。
「ないわ。あなた自身からはね」
「・・・麦わら屋か」
「ええ、そうよ」
いつも話をしてくれるわ。
「今日は助けてくれてありがとう。でもね」
それとこれとでは話が別。
「うちの隊長に手出ししたら許さないんだから」
「・・・」
麦わら屋本人には伝わらないのに、コイツの周りのヤツには分かってしまっているなんてな。ため息が出そうになるが、一応確認する。
「同意の上でも?」
「ん〜。そうなったら仕方ないと思うけど」
不敵に笑って一言。
「うちの隊長、手ごわいわよ?」
「望むところだ」
かすかに目を見開くと、次の瞬間、女は晴れやかに笑った。目じりに浮かんだ涙をぬぐいながら言うことには。
「私たちの部隊のまぬけ共にも聞かせてあげたい言葉ね。気に入ったわ!」
「ふん」
「今日はその心意気に免じて、うちの連中は止めといてあげるわ。ルフィの治療よろしくね」
そう言うと颯爽と帰って行った。麦わら屋の無事を確認したのだから、軍医がいるのにわざわざ自分が付いている必要もなければ、むしろ邪魔になると理解した上での行動。無事の確認ついでに釘を刺されたわけだが、麦わらの部隊の足止めをしてくれるというのはありがたい。
「お前、愛されてるな」
部下に本当に慕われている隊長が軍にどれくらいいることか。青い顔をしている麦わら屋を見て、そんなこと気にしている場合ではなかったことを思い出す。ああ言った手前、おざなりな治療なんて出来ないな。


まあ、するつもりは元よりなかったが。






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