とある戦闘
「ハア・・・、ハア・・・」
とめどなく鳴り響く銃声と爆発音に聴覚はイカレてしまった。自分の荒い呼吸と鼓動だけやけに大きく聞こえる。
「ちょっと・・・やべェ・・・」
手に握った自動小銃の軽さに残りの弾数の少なさを思い知らされ、小さくつぶやく。思い浮かべるのは戦闘中に飛び出してきた民間人。
「あいつら、逃げれたかなぁ」
隠れていたところが爆撃されたのか、あまりの激戦に我慢しきれなかったのか。出てきたところでこの乱戦では命の保証などないだろうに。彼らにとって幸運だったのは、麦わら部隊に偶然にも出会ったことだった。彼らを逃がすよう部隊に指示し、仲間が引きとめるのも聞かず、囮のため単身バイクに乗って敵に突っ込んでいった。
少なくない数の民間人を含めた全員を生きて帰すには、彼らをかばいつつの戦闘など、言語道断だ。囮が引きつけている間に、安全な所まで逃がす方が一番生き残る確率が高い。しかし、半端な者だと囮の役割を果たす前にやられてしまう。しかも多くの数を逃がすために軍用トラックは使うので囮はバイクで走らなければいけない。つまり腕っ節が強く、バイクの運転技術では敵うものがそうそういないルフィは適役と言えた。もちろん、本人がそこまで考えたかというと全くそんなことはないのだけれど。
途中で流れ弾にタイヤの側面をやられ、バイクは敢え無く機動力を欠いた。鉄の塊に変わるのも時間の問題のそれを敵のいる方に向かって一気に加速させ、自分は飛び降りた。避けながらの銃戦だったのが、そこから隠れながらの銃戦へと変わった。
「くっそー。あいつらしつけーな」
爆撃から逃れることができた建物の陰に隠れて銃器からの攻撃を避ける。撃ち込まれる弾丸から考えると、敵方には相当な数がいそうである。
「困ったなァ。ゾロ達が戻ってくるまでにはまだ時間がかかるだろうし、こっちの弾数だけじゃあいつら全員相手するのはキツイし・・・」
それにちょっと血を流しすぎた。さっきから知覚がおかしいのはその疲労のせいもあるのだろう。
「軍病院に行ったら、すぐに治してもらえんだけどな。説教もそうとう長そうだけど」
あの寒がりでいつも寝不足な医者は無理するなって言っていたっけ?自分よりよっぽど無理をしている医者のことを思い出して、絶望的な状況に不似合いな笑いが出る。その時。
「ギャアああぁぁ!!」
「テメぇ何モンだァ!!」
「こっちに来るんじゃねぇ!!」
今まで撃ちこまれていた弾丸がパタリと止んだ。銃声が聞こえることから、ターゲットがこちらではなく別のものに移ったのだろう。
「何だ?」
壁から顔を出すと、そこにはまさに先ほど思い浮かべた外科医の姿があった。
「え!!?ロー!!!?」
「麦わら屋!」
左手だけでバイクを操りつつ、右腕で刀を振り回す。その切っ先に触れた者は血しぶきを上げて倒れ伏していった。通常着用しない軍服を返り血で染めた彼は、ルフィの姿を視界に捕らえるとまっすぐに向かってきた。
「乗れ!」
刀ごとグリップを右手に持ち、左腕一本でルフィの身体を掻っ攫う。
「ゲフっ!!」
「とりあえず逃げるぞ!」
グイっと引っ張り上げて、そのままスピードを上げる。いつぞや酷い山道を行かせたバイクは今回も乗り手の望む通りの走りを見せた。
「なんで、ローがここにいるんだよ」
「助けてもらっておいて、第一声がそれっていうのは気に食わねェな」
だいぶ先ほどの戦場から離れたところでぼそりと呟いたルフィの言葉をローが聞き咎める。
「あ、そうか。助けてくれてありがとうな!」
「それでいい」
言えば素直に聞くヤツである。その謝辞を聞いてから自分がなぜここにいるかを答え始めた。
「今回の小競り合いは、小競り合いと言うには規模がでかいとお前らが出てから連絡が入った。だから救護班の増援が要請されてな。その増援部隊に入ったから近くまでは来てはいた」
麦わら屋の部隊が最前線であったため無理に自分を加えての編成を組んだのは黙っておく。
「で、待機していた所でお前の部隊から連絡があったんだ。『ルフィ少佐が一人で突撃しました』ってな」
肝が冷えたぜ。どうしてそんなことをしたのかも麦わら屋の優秀な部下である女が気丈な、でも震えた声で伝えてきた。そして彼女は無線に言った。
「誰か、早くルフィを迎えに行って」
無線の受信をしているテントを出ていこうとしていたローの耳に、その言葉はしっかりと届いた。
「でも、なんでローが来るんだ?軍医ってそんなこともしなきゃいけねェのか?」
「いーや、そんなことねェな」
「じゃあなんで来んだよ!危ねェじゃねーか!!来んな!!」
「それが止めに入った兵士3人殴り倒してきた俺に言うセリフか?」
その時になって初めてルフィはローがひどく怒っていることに気がついた。今までどんなに馬鹿をやってもここまで怒気をはらんだことはない。
「ロー?」
「全く、お前にはいつも驚かされる。けどな、今回みたいなことはもうご免だぞ」
ルフィの腰に回っているローの腕がわずかに震えていることが分かった。前方を見ていたローの目が動きルフィを見る。じかに目が見えるということはヘルメット装着する時間もなくバイクに乗ったのだろう。
「こんなに怪我しやがって」
そう言うと碌に力の入らない身体をさらに引き寄せられた。
「俺の知らないところで死ぬのかと思った」
きつく抱き寄せられたせいで、顔が見えない。でも多分、苦しそうな顔をしているに違いない。そんな顔をさせているのはおれだ。
「ごめん」
「全くだ」
怒りが多少治まったらしく、詰めていた息を深く吐き出すのが分かった。自分も知らず知らずのうちに強張っていた身体を弛緩させる。途端、眠気が全身を支配した。身体が重くなったことが伝わったのか、ローが言う。
「寝てろ。治療し終わったら起こしてやる」
「わりぃ・・・」
眠りに落ちる直前に何事かローが言った気がしたが、おれはその言葉を正確に聞きとることができなかった。
「死んだら、お前を殺した奴を消してやるよ」
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