とある外出(2)
エンジンが唸りを上げるのを聞く。前を行くバイクが無茶苦茶な速度で走っていることを、獣道よりひどい状態の道脇で岩が砕けていることが証明していた。
「ブレーキの存在、知ってんのか?」
薄く色の着いたシールド越しに小さくなった姿を確認する。この悪路であれだけ走れるヤツはそういないだろう。
「俺がバイクの扱い下手だったらどうするんだよ」
軽くため息が出る。あいつは周りに気を使ったりする人間じゃなかった。グリップを強く握りこむ。
「ま、そんなことないけどな」
エンジンとタイヤを繋ぐ金属同士が熱く抱擁を交わす。そうして生まれた爆発力が、音と速さに変わった。
「ローのヤツやるなー」
スピードを出す前に壊れないよう下げておいたミラーではなく、磨き上げられた黒いメタリックボディに写される後ろの光景に笑いが止まらない。最初こそ出足が遅れたが、今はもうそんな瞬間はなかったと言っていいほど2台のバイクに距離がない。前に視線を戻すと青い断片がちらりと見えた。ゴールは間近だ。林立する木々を抜ける瞬間、今まで一度も使わなかったブレーキを一気にかける。下手なドライバーが後ろを走っている場合は絶対に出来ない行為だ。ローなら絶対に避ける。
高いブレーキ音のカノンが響いた。
後続のバイクはブレーキのタイミングが遅くなるため、空中で2台のバイクは並走することになる。
「すげえな!同着だ!!」
麦わら屋の声が称賛しているのが分かったが、それどころではない。こいつはやべぇぞ。シートから放り出されることはなかったが、車体ごと空気中に放り出されてしまった。とりあえず。
「こうするしかねぇだろ!」
前輪が地に着くと同時に、今までの進行方向と車体とが垂直になるようハンドルを切る。ブレーキも掛けるが、スピードを殺し切れていないから効きは良くないだろう。しかし、その予測はすぐに裏切られることとなった。
タイヤが両輪とも深く沈む。どういうことだ。急速にスピードが落ちたため、その原因を目視することが可能になった。
「砂!!?」
なんでこんなところに大量の砂があるんだ?完全に二輪駆動機が停止してからヘルメットを取る。
「おれについて来れるヤツなんて滅多にいないんだけど。ローはその中でも初めてで最後まで来た珍しいヤツだ!!」
先にバイクのエンジンを切ったらしい麦わら屋がこちらに向かってきていた。
「おい、麦わら屋。この大量の砂はどういうことだ?」
「ん?なんかおかしいか?」
「俺らは今までジャングル並みの山道を走ってたじゃねえか。なんでこんな砂浜みたいに砂があるんだよ」
「何言ってんだ?ここ海岸だぞ?」
そう言われて初めて磯のにおいを感じた。麦わら屋と反対の方を見ると、空の青と違う青が遠くに緩い曲線を描いてあった。
「山抜けてきたからな。海に出るに決まってるだろ?」
目的地は市街地と言っていたから、ここは市街地に近い海岸なのだろう。確かに離島に続くあの橋は見覚えがある。とんでもないショートカットだ。
「時間は短縮できるが、普通のヤツだったら寿命も縮むな」
先ほどまで走っていた道を思い浮かべて呆れかえる。
「なあ、楽しかっただろ?」
得意げに物言う子どもに笑った。
「確かに面白かったな。でも、今日は面白いものをまだまだ見せてくれるんだろ?」
いつもお前の目が何を見るのか知りたかったんだ
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