NOVEL  >>  Short story  >> 

とあるすれ違い





今日の訓練は早めに終わって、暇になってしまった。こんなに早く終わるなんて思っていなかったから、予定も何もない。
「ひまだー」
宿舎に戻るにはまだ早い時間であるが、街にでるには少し遅い時間だ。
「あ、そうだ」



「ローは部屋にいっかなー」
麦わらをかぶった男がぺタペタと軍病院歩いていた。その足はある一室に向かっていた。程なく通いなれ始めている部屋に到着した。診察中の札が掛かっていないことから、中にいる可能性はほとんどないと判断し、懐からカードキーを出す。
ピッ
扉が静かに開くのを満足げに確認すると自分の身を滑り込ませた。
「やっぱりいねーな」
入ってすぐの診察室に人影はない。いつものことだと思いつつ、奥のプライベートルームへの扉を開ける。
「あ?」
そこにはベッドに横たわる人。言わずもがな、この部屋の主だ。
「珍しいなー。いたんなら返事ぐらいしろよ」
返事がない。
「ロー?」
いぶかしく思いのぞき込んでみるも、眠っている男が目を開ける様子はない。疲れてるんだろうなーとは思うものの、構ってもらえないのはつまらない。
「ロー。起きろよ」
肩を軽く揺すると、重そうに瞼が上がった。
「お。起きたか」
「・・・麦わら・・・屋?」
寝起き特有の掠れたような声でローが言う。
「おう、俺だ」
「・・・」
「おーい、起きてるかー?」
その問いかけを無視し、ローが不意に腕を引っ張った。
「うわっ」
覗き込んでいたのが災いした。バランスを崩し立っていられなくなった結果、ルフィはローの腕の中に閉じこめられることになった。
「ちょ、いきなり何だよ!」
聞こえてきたのは静かな寝息。寝ぼけていたのか。
「ま、いいか」
今日は暇だ。



ピーピーピー
聞き慣れた医師の呼び出し音を胸ポケットにある小型連絡機器が響かせる。ほとんど無意識にそれを取り出し、通話ボタンを押す。
「・・・分かった」
緊急要請に一言だけ伝え、通話を切る。それを何気なく元あったところに戻したところで、妙に温かいことに気づく。目を完全に開けたことで、その原因はすぐに突き止めることができた。
「・・・なんで麦わら屋がいるんだ?」
しかも抱き枕よろしく自分の腕が抱き込んでしまっている。ここで寝入るまでの記憶が確かであれば、その時いなかったはずだ。ということは自分が寝てしまってからここに来たことになる。
「信じられねえ」
人が入ってきても気づかなかったなんて、今まで一度もなったのに。しかし、現実は目の前にある。
「いつからお前はこんなに近くにいたんだ?」
もう他人ではない。いつの間にこんなにも気を許せる存在になっていた。まだ幼さを残す輪郭をたどる。触れる指先が温かく感じるのは本当に温度だけの問題だろうか。
「今考えたって仕方ねえか」
連絡が入って数分経っている。のんびりしてられない。勢いをつけて上体を起こすと、仕事に意識を持っていく。
「帰ってくるまで待ってろよ。メシでも食いに行こうぜ」
こめかみに掠めるだけの口づけを落とした後、ごまかすように黒い髪をぞんざいにかき回す。



さあ、仕事だ






<< END >>

夢見たっていいじゃない!(言い逃げ bySSF

NOVEL  >>  Short story  >> 

とあるすれ違いCopyright © 2009 帰るミチ all rights reserved.