とある護衛
地位なんてかったるいものだと思っていた。しかし、こういう場面になると上下関係があるのもいいな、なんて考えるから人間はなんて現金なものだろう。
「なあ、そう思わないか」
「は?何言ってんだ。おま」
「ルフィ少佐」
「・・・失礼しました。ロー少将」
笑いが止まらねえ。
年に数回ある軍医だけの会議や医療にかかわる者としての学会に出席することも俺の仕事の一つだ。場所はその時々で変わるが、今回の軍医の会議は軍の中枢とも言える基地で行われている。つまり、俺の本拠地ではない。今までこんな出張みたいな仕事はてきとうに部下に回したり、無視したりしていたのだが、少将になってからは流石に無視できない会議が出てきた。軍医による将官会議だ。軍医で将官と言われる立場にあるのは最高地位である少将のみ。つまり、この会議は軍医としての最高地位に就いた者たちしか出席することはできない。代役を立てることはできない。
「心底こんなに面倒な会議を作ったやつを恨むぜ」
しかし、今回妥協したのには三つ理由がある。一つは久しぶりに他のレベルの高い軍医たちと意見交換して最新の医療技術を知りたかったこと。会議の合間に最新の医学書を買いに行けることが二つ目。そして最後の一つは、俺の斜め後ろに控えているコイツ。
「そんな面倒なモンに俺を連れてくんな」
そう。これは『仕事』だ。護衛が必要であれば何人でも引き連れて行くことができる。俺が連れてきたのはたった一人。しかし、その一人が重要だったのだ。もし他の兵士や部下であったなら、必要と思わない。それぐらいだったら俺一人でいい。というのも、いつも不遜なふるまいをするコイツが上下関係のキッチリしたところに行ったらどうなるかを見てみたかった。
「ルフィ少佐。たまには俺の苦労に付き合え」
「・・・」
そしてその実験は想像以上に面白い結果になりそうだった。
「時にはこういった趣向も悪くないな」
いつもはけだるい会議が今日はやけに楽しい。
「そんなにいじけることないだろう」
「・・・」
会議が終わった後ぶらぶらと街に出る。後ろの麦わら屋はさっきから黙ったままだ。
「別にいじけてねー」
やっと口を開いたかと思ったらガキみたいなセリフを吐きやがる。後ろを見やると歩くのを止めたらしく少し距離があった。数歩引き返して目の前に立つ。
「じゃあ何がお前をそうするのか言ってみな、ルフィ少佐」
「それ」
「は?」
「それ、ヤダ」
「ああ?何が?」
「呼び方」
なるほど。麦わら屋はそれで不機嫌だったのか。
「俺だって分かってんだ。これは『仕事』で、ちゃんとしなきゃいけないんだって」
でもさ、と麦わら屋は続ける。
「他人みたいで、俺、ヤダ」
ガキみたいな物の言い方。その言葉がコイツの本心を如実に伝えてくる。
「いつもみたいに呼べよ」
どうしようもないガキだ。駆け引きなんて出来ない、ストレートな物言いで自分の要求をしてくるガキ。しかし今はその要求を飲んでやろう。
「来いよ。麦わら屋」
それでお前が笑うのなら
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