とある鍵
空を飛ぶ鳥を見て麦わら屋はつぶやいた。
「あ〜、飛びて〜」
「思考が飛んでるからいいじゃねえか」
「あ、ローだ」
「何が『あ、ローだ』だ。ここは俺の部屋だ。なんで麦わら屋がいんだよ」
軍医それぞれに与えられている部屋には、軍の個人情報が数多く存在する。そのため、それらの部屋はカードキーがないと入れないようオートロックになっているはずだ。それなのに麦わら屋はそんな部屋のベッドに寝そべって窓から見える景色を楽しんでいる。
「どうやってこの部屋に入りやがった」
完全セキュリティであるはずの部屋への侵入は驚くに値する。が、出会った当初から様々な方向で規格外の男の行動なので、そこはもう気にしない。それならばいかにして入ったかを聞き出し、それへの対策をした方がいいだろう。正直、それなりに訓練した男が本気を出せば蹴破れるような薄っぺらい扉に守られるような情報なんてたかが知れていると思わなくもないのだが、一応建前というものがある。
「ん、これ」
そう言って麦わら屋が投げたものを空で受け取る。手の中にあるカードを見て俺は文字通り固まった。
「・・・てめえ、これをどこで手に入れやがった」
そこには大将級しか持てないマスターキーがあった。
「昔シャンクスがくれた」
「シャンクス・・・ってお前、空軍大将の赤髪屋と知り合いなのか!?」
「そうだぞ」
大将とはそんなに身近な存在だっただろうか・・・と自問する。答えは否。今までに自分が大将と言われる人を見た回数は片手で足りる。しかも遠くから見る程度だった。それなのにコイツは大将階級の人間と親しくしており、何の間違いかマスターキーなんていう結構使い方によってはやばいものまでもらっているという。うちの軍は大丈夫なのかよ、と俺は頭を抱えたくなった。
「どうなってんだよ、この軍・・・」
コイツ自身が悪用するなんて思えないが、持ち主から盗んだり奪ったりできればソイツは軍の情報は引き出し放題だ。
「麦わら屋、気をつけろよ」
「何にだ?」
このカードキーの力を知らないわけじゃねえよな。
「これはかなり価値があるもんだぜ。他に見た馬鹿が強奪しようとするかも知れないだろ」
「あー、そんなことか」
そんなことって。
「てめえ」
「だってそれを見せたの、ローが初めてだ」
この1枚のカードがいかに軍にとって致命的なダメージを与えられるものであるかを説こうとしていた俺の言葉が止まる。
「俺だって馬鹿じゃねー。それが軍にとってどんなに大切なものか分かる」
窓の外を見ながら麦わら屋はいつもと変わらない声で言う。
「シャンクスもむやみに使うなって言ってたしな」
ヤツの目は空の鳥に向けられたままだ。
「じゃあなんで」
「ローに会いたかったから」
一瞬聞き間違いかと思った。
「なんかローに会いたくなったんだ」
「・・・なんで普通に会いに来ねえ」
「おめえがそれを言うか?いつ来たってここに居ねーじゃん」
そういえばこの頃まともに自室にいなかった気がする。若手ゆえにことあるごとに呼び出しを受け、こき使われている。
「この病院がどれくらい広いか知ってんだろ?探すのは疲れそうだし、大声で呼ぶと怒るし」
学習能力はあるようだ。確かに再会した時の大声で叫ばれると迷惑だ。だが、ちょっと待て。
「病院内の呼び出しを使えよ」
「あ」
がばっと麦わら屋が半身を起こす。
麦わら屋:生活的応用力の欠如あり
そっと俺の脳内カルテへの入力が完了した。
「そっか〜。その手があったな!ローは頭いいな」
「お前は一つ賢くなれてよかったな」
「ああ!ありがとう!!」
皮肉が通じねえ。
「そっかー。今度から病院の呼び出しを使えばいいんだな」
「ああ、そうしろ」
いや、ちょっと待てよ。
「やっぱりお前これ使って入ってこい」
「え、どうしてだよ」
俺が差し出したマスターキーを受け取りつつ、麦わら屋が首をかしげる。
「いちいち呼び出すのは面倒だろ?」
「まあそうだけどよー。いいのか?」
「気にするな。俺がいいって言ってんだ。いいに決まってるだろう」
「んー、なんかよくわかんねえけど、そう言うならそうさせてもらう」
受付を通してしまうと麦わら屋がここにいるって他のヤツに分かっちまうじゃねえか。俺に会いに来てるんだ。その間くらいは俺が独り占めしてていいだろう?
そういうわけで、俺の部屋には時々麦わら屋が侵入している
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