いかないでいかないで
「佐助どうした?」
それはいつも通りの夕方。縁側でぼんやりと沈む夕日を見ていたら後ろから佐助が身体に腕を回してきた。
「何でもない。けど、少しの間こうしてていい?」
珍しいな。佐助がそんなことを望むなんて。肩口に伏せた顔から表情を読み取ることは出来ないが、声の調子はいつもと変わらない軽いものであった。それが余計に不安になる。
「別にかまわないが・・・何か言いたいことがあるなら言え。聞くぞ」
佐助の言葉は虚栄と嘘とであふれてる。本当のことを外に出すのが苦手な佐助。幼いころから忍びとして育ち、習性を身につけてきたためだと、短くない付き合いの幸村には分かっていた。
「じゃあお言葉に甘えてさせてもらおっかなー」
佐助がいつも通りの声音だったのはここまでだった。抱きしめてくる腕が強くなる。そして、それは唐突に始まる。 「いかないで。いかないで。どこにも。どこにもいかないで。ずっと。ずっと一緒にいてくれ」
音量に変化があったわけではない。しかし、まるで悲鳴のように聞こえるのはなぜだろう。元来の色と夕日があいまっていつもより赤い髪を見ながら幸村はそんなことを思う。
「そうやって時には吐き出すのが一番だ」
動かしづらい手を上げてその赤を撫でる。
「俺はここにいるだろう?」
お前が納得するまで何度も言おう。
行かないで逝かないで
いく時は俺も連れていくと約束してよ
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